しんしんの雑記帳

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太宰治『老ハイデルベルヒ』について

僕の好きな小説に、『老ハイデルベルヒ』というのがあります。

青空文庫で読めます。図書カード:老ハイデルベルヒ

 太宰の好きな所を少し書いてみようかなと思います。

 

太宰が帝大生時代に三島でひと夏を過ごした思い出を振り返るという内容です。

気前のいい佐吉さんとの付き合い、そこで出会う人達との交流など、太宰にはとても大切な思い出であったようです。

三島は、私にとって忘れてならない土地でした。私のそれから八年間の創作は全部、三島の思想から教えられたものであると言っても過言でない程、三島は私に重大でありました。

 

思い出の回想は終わり、物語は現在に場面転換します。

曲がりなりにも作家として生計を立てられるようになった太宰は、奥さんと、奥さんのお母さん、そして妹の3人を連れて旅行に出掛け、三島に行ったのです。

しかし、8年が経ち、三島の町に当時の面影はありません。全く他人の町になってしまったのです。

三島が色褪せたのか、自分の胸が老い干乾びたのか、はたまた両方か。太宰はすっかり憂鬱になりますが、三島まで来てしまった手前、連れの3人をがっかりさせるわけにはいきません。必死で取り繕います。そのまま当時佐吉さんとよく行っていた飲み屋に行きました。しかし、その店の以前の店主はもうおらず、そこも様子は全く変わってしまっていました。

 

私はいよいよやりきれなく、この世で一ばんしょげてしまいました。

 

これでこの小説は終わります。

 

僕がこの小説を好きなのは、「自信のなさ」がよく表れていると感じられるからです。

気弱だけど、虚勢を張ってしまう、でも内心はやりきれない思いを抱えている。そういう自信のなさが、後半の現在の旅行において顕著になります。

僕は、読んでてしんどくなるというか、目も当てられなさが好きなんだと思います。

 

書かれた時期は違いますが、『桜桃』の冒頭の「子供より親が大事、と思いたい。」というある一家の父親の言葉から発せられる感情と、老ハイデルベルヒに漂うやりきれなさがとても似ていると思います。まあ、同じ人が書いているのだから当たり前と言えば当たり前なのでしょうけれども。

 

「子供より親が大事、と思いたい。」

 

思いたい、という微妙な表現。本当は違うかもしれない。否、現実として違うと分かっている。けれども、自分のプライドはその現実とは相いれない。

だから、虚勢を張って、「子供より親が大事」と自分に言い聞かせる。そう思いたいのだ。

 

 

 

僕は太宰治が好きです。

弱くてもいい。むしろ、弱いところがいいの。