しんしんの雑記帳

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社会的世界を作るそろばん

 修論に向けて、社会現象としてのそろばんと、卓越したスキルとしてのそろばんをめぐる様々な実践という二つの観点から、そろばんの研究を進めたい。
 そろばんはなぜこの時代になっても存在しているのか。おそらく、普段そろばんを単なる計算道具として用いることはほとんどないだろう。必要ならば電卓や何らかのデバイスを用いれば難なく、正確に計算をすることができるからである。何十年も前には、銀行でもそろばんが使われていたようである。しかし今では、もはやそろばんなどという「前時代的な」計算道具は用いられない。

 けれども、現代の日本において、未だに習い事として、趣味として、あるいは競技としてそろばんを「する」人びとは少なからず存在する。そのそろばんを作る人がいる。海外でそろばんを教える先生もいる。要するに、そろばんに何かの価値を見出す人がいる。それがそろばんが「絶滅」しない理由の一端を担っていると思う。社会的世界のなかのそろばん、社会的世界を形成するそろばん。これが第一の主題である。


 教育という観点でそろばんを見たときに、そろばんは、数感覚を養うツールとして重宝されていたり、卓越した暗算能力の獲得のためのプロセスとして見なされていたりする。これはそろばん業界でしきりに強調されるそろばんを習うメリット、その宣伝文句である。だからこそ、そろばんの研究は、脳科学認知科学の領域に集中してきた。しかし、そろばんを練習することによって養われる認知能力(計算や暗算の技能)、あるいは、練習を通してそうした能力を養うということは、心理学者の研究題目である以前に、学習者や指導者にとっての実践的な問題である。そろばん教室という社会的世界において繰り広げられる、学習者の能力をめぐる様々な実践を理解すること。これが第二の主題である。

 

 


日本社会のなかのそろばん

〇そろばんの歴史
・中国から日本に伝来したのは、15~16世紀の間だとされている。江戸時代には、和算とともに発展していった。
・昭和の中期まで銀行でもそろばんが使われていた。
・そろばん付きの電卓も存在していた。

 

〇伝統としてのそろばん
・「読み書きそろばん」「論理思考の基礎」
・兵庫の播州そろばんと島根の雲州そろばんが有名・主要な生産地。経済産業省によって伝統工芸品にも指定されている。価格は大体4000円から、8万円もするそろばんもある 。

 

〇習い事としてのそろばん
・親はなぜ子どもにそろばんを習わせるのか
・子どもたちはなぜそろばんを習おうと思ったか
・「右脳が鍛えられる」「集中力が身に付く」「記憶力が上がる」という典型的な宣伝文句


○サービス業としてのそろばん塾  
21年度 22年度 25年度 26年度 27年度
事業所数 8,196 9,230 9,090 7,974 7,007
従業者数 16,323 17,809 18,824 16,091 14,085
年間売上高(百万) 25,949 24,787 28,242 22,498 20,410

 

〇道具としてのそろばん
・23桁のそろばんが一般的。
・ワンタッチそろばん(盤面左上部のボタンを押すと一瞬でご破算できる)もある。
・四則演算に加えて、開法(二乗根、三乗根)の計算ができる。


○主要な珠算団体
全国珠算教育連盟
 1953年設立。自主的に活動を展開していた各地の珠算団体が結集して、全国規模の新団体の核となり、更に結束の輪を広げて全国各地の珠算団体や珠算教育者に呼びかけて、広範な教育活動の展開を目指して創立された。
日本珠算連盟
 1953年、珠算に関する調査・研究、商工会議所が行う珠算事業への協力等を目的に設立された。
・全国珠算連盟
 1983年設立。珠算の普及・啓蒙を通じて日本人の計算能力を高め、また日本文化の発展に寄与すると共に、国内外における珠算教育の振興に寄与することを目的とする。
全国珠算学校連盟
 1961年10月、全国専修学校各種学校総連合会の中に「全国珠算学校専門部会」結成準備委員会が発足し、翌年の1962年5月2日に珠算学校認可校の全国組織として「全国珠算学校連盟」が結成された。

 

○競技としてのそろばん
日本珠算連盟主催の珠算名人位決定戦
 ⇒「個人対抗の種目別によって争われ、各種目の勝ち数の多寡によって名人が決まるという"見せる競技"としての側面を持っています。」
全国珠算教育連盟主催の全日本珠算選手権大会


〇認知能力としてのそろばん
・最高で19桁の読み上げ暗算に正答したという記録
フラッシュ暗算:3桁15口の数字の和を1.60秒で計算
・数の概念を視覚的に理解するツール
・「認知症予防」
・そろばんの生存戦略

 

○そろばんのグローバル化
「ICT技術が発達した現代でも、そろばんによって培われる計算力等は大変重要な基礎能力です。近年、そろばんは欧米やアジア諸国でも取り入れられ、「世界最良の算数教具」としてのグローバルな教育ツールになりつつあります。」

 

初等教育におけるそろばん
・『学習指導要領』「「生きる力」第2章 各教科 第3節 算数」
 第三学年 A 数と計算
(7) そろばんによる数の表し方について知り,そろばんを用いて簡単な加法及び減法の計算が できるようにする。
ア そろばんによる数の表し方について知ること。
イ 加法及び減法の計算の仕方について知ること。
 第四学年 A 数と計算
(7) そろばんを用いて,加法及び減法の計算ができるようにする。

 

 

○記事など

「データ時代だからこその『SOROBAN』藤本トモエ(トモエ算盤代表取締役社長)×石倉洋子【特別対談6】」,DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー,2015年04月08日 http://www.dhbr.net/articles/-/3190 2018年6月19日閲覧

雲州そろばん商品紹介 http://unsyusoroban.com/goods
子供の習い事としてそろばんが効果的過ぎる理由 http://kodomo-no-naraigoto.com/
経済産業省,特定サービス産業実態調査 教養・技能教授業編 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/result-2.html
http://www.shuzan.jp/kyougikai/meijin/

驚異的な計算能力を持つ そろばんの達人の頭脳 – 早稲田ウィークリー http://www.waseda.jp/inst/weekly/academics/2015/04/01/31877
そろばん「フラッシュ暗算」で世界記録 3桁の数字15個の和を1.60秒で計算 – 早稲田ウィークリー http://www.waseda.jp/inst/weekly/attention/2016/06/21/8369
「脳力アップ」そろばん復活 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞) https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20100531-OYTEW55552/
斜陽の「そろばん塾」がにわかに増えた舞台裏 「右脳を鍛える」をウリに、500教室を突破 | 学校・受験 - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/169947
文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm

 

○文献

冷水啓子,1997,「そろばんの心理」『桃山学院大学人間科学』No.12:47-66. 

江部正周・青山敦・今井むつみ,2017,「珠算熟達者の記憶課題における全脳の神経ネットワークの解明」Technical Report on Attention and Cognition, no.18: 1-2. 

Barner, D. et al. 2016. "Learning Mathematics in a Visuospatial Format: A randomized, Controlled Trial of Mental Abacus Instruction." Child Development, Vol. 87(4):1146-1158. 

Tanaka, S. et al. 2012. "Abacus in the Brain: a longitudinal functional MRI study of a skilled abacus user with a right hemispheric lesion." 

Stigler. 1984. "'Mental Abacus': The Effect of Abacus Training on Chinese Children’s Mental Calculation." Cognitive Psychology, 16: 145-176. 

Wang et al. 2013. "Numerical Processing efficiency Improved in Experienced Mental Abacus Children." Cognition, 127:149-158. 

Li et al. 2013. "The neural pathway underlying a numerical working memory task in abacus-trained children and associated functional connectivity in the resting brain." Brain Reseach, 1539:24-33.